農と食のQ&A

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スラリーを発酵させて有効に使いたい

疑問の経緯

近年、国の取り組みとして スラリータンクの建設が進んでいる。

スラリーを堆肥のように発酵させて土地に還元させる方法があれば、生産費を下げることが出来る。

地域内では、発酵の促進剤などを投入している農家もいるが、それらの投入と発酵の効果がまだ明確ではない。

また、スラリーの発酵状態を見る上で 現在は 色やpH しか 判断基準がない。

 

質問項目

・スラリーの発酵について すでに確立されている方法はあるか

・現在、どのような研究がされているか

・発酵の進み方を見る上で どのような点に着目すればよいか

 

質問者

浜中サテライト

回答
・スラリーの発酵について すでに確立されている方法はあるか

 

まず、スラリーとは 家畜のふんと尿、敷きわらなどの混合物のうち 水分が87%以上のものと定義されています。水分が多いため 堆肥のように切り返して発酵させるのとは異なる方法で処理することになります。

発酵には 好気的発酵と嫌気的発酵(メタン発酵)とがありスラリーはどちらの発酵も可能です。

 

好気的発酵には大量の酸素を必要とすることから、ポンプなどで空気を送りながら撹拌(曝気-ばっき-)することになります。

スラリーを好気的発酵することで、有機態窒素は無機化され、堆肥よりも 化学肥料のように速効性の肥料になります。

 

嫌気的発酵(メタン発酵)は いわゆるバイオガスシステムと呼ばれているものです。

嫌気的な条件で加温・撹拌しながら メタンガスを主成分としたバイオガスを発生させ、ガスをエネルギーとして、液分を肥料として利用する方法です。

処理後の液肥は粘度が低く、臭気も低減されるため扱いやすくなります。また、密閉状態で処理されるため 発酵による窒素分の減少がなく、肥効性の高い液肥として利用できます。

一方で 処理のための設備やメタンガスの利用設備の建設費、その維持費が高額であることが欠点です。

 

スラリーを嫌気的状態で放置する(発酵の条件を整えない)と 低級脂肪酸や硫化化合物(硫化水素・メチルメルカプタン・硫化メチル)などが発生し、散布するときに臭いが拡散します。

 

・発酵の進み方を見る上で どのような点に着目すればよいか

 

発酵によって得られるメリットは次の通りです

 ・粘性が下がりポンプでの搬送が容易になる

 ・臭気が低減する

 ・速効性の肥料になる

 

これらのメリットに対して、なるべく肥料成分を揮発させないように処理することがポイントになります。

 

好気的発酵(曝気)する際の目安

汚泥がない状態(新しいスラリーのみ)で開始した場合は

原料1t(=約1立方メートル)あたり 積算曝気量が100立方メートル

(乾物1kgあたり空気2立方メートル)

<スラリー容積の100倍の空気を送り込む>

 

スラリータンクに溜まった汚泥を残して 曝気を開始した場合は、

新しいスラリーのみの場合よりも 発酵にかかわる微生物が多いため

原料1t(=約1立方メートル)あたり 積算曝気量が80立方メートル

(乾物1kgあたり空気1.5立方メートル)

<スラリー容積の80倍の空気を送り込む>

となります。

 

必要以上に曝気を続けると 肥料成分が低下し、ランニングコストも増加します。

 

肥効成分の数値的な判断基準としては、アンモニウム態窒素の含有率を測定することで スラリーの品質と肥効を評価することができます。

この測定には ECメーターを使用し、発酵させたスラリーの電気伝導度を計測します。

 

曝気の方法

曝気の方式には主に2種類があります

エジェクタ方式・・ ポンプで液を吐出するときに空気を混入させる

散気管方式・・   固液分離処理機内に管を設置しておき 圧縮空気を泡状にして噴き出す

 

なお、固液分離処理をした後の分離液を 曝気することで、空気を送るためのエネルギーを節約することができます。分離した固体は堆肥として発酵させることができます。

また曝気によって、大量の泡が発生するので消泡装置が必要になります。

 

さいごに

今回は特にスラリーの好気的発酵についてご説明しましたが、スラリーの曝気には 設備と、エネルギーを必要とします。

スラリーを扱う上で仮に「臭気」が問題とされる場合は、スラリー自体の処理ではなく 散布の方法によって臭いの拡散を抑えることも有効な手段であるといえます。

衝突板を装着したスプレッターに比べ、バンドスプレッターや浅層インジェクター、トレーリングシュインジェクターなどは 散布時の臭いを70~90%低減させます。

スラリーの処理施設は個人の所有になりますが、高価な散布機も共有することで費用の軽減になります。また地域の特性によって 観光客や市街地住民への配慮が必要である地域と、そうでない地域を区分し 散布方法を検討することも臭気対策として有効です。

 

さらに ご質問がございましたら お尋ねください。

 

情報提供  前田 善夫

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